補助金とは、国や地方公共団体から返済不要なまとまった資金を得ることができる制度です。補助金をうまく活用することで機械の購入などがしやすくなり、事業の成長スピードを速めることが可能となるでしょう。
では、農業機械の購入に活用できる補助金には、どのようなものがあるのでしょうか?今回は、農業機械の購入やスマート農業に活用できる補助金についてくわしく解説します。
補助金とは
これまで補助金を活用したことがない方にとっては、補助金がどのようなものであるのかよく分からないかもしれません。はじめに、補助金の基本について解説していきましょう。
補助金は国などから返済不要な資金が受け取れる制度
補助金とは、国や地方公共団体などから、補助金の目的に沿った経費の一部の補填が受けられる制度です。
たとえば、仮に農業機械の購入を対象に「補助上限額200万円、補助率3分の2」とされる補助金を活用したのであれば、300万円の農業機械を買った後で、200万円(300万円×3分の2)のお金が戻ってくるということです。
補助金は融資とは異なり、不正受給などでない限り、原則として返還する必要はありません。そのため、仮に融資で農業機械を買った場合には、返済に充てるべきであった資金を事業への投資に充てることが可能となります。うまく補助金を活用することで、事業の成長スピードを速める効果が期待できるでしょう。
ただし、補助金は要件を満たして申請したからといって、必ず受け取れるものではありません。申請後、多数の申請の中から採択がされて、ようやく補助金の受給権が得られます。そのため、補助金はあくまでも補助的な位置づけとして捉え、補助金ありきで事業計画を立ててしまわないよう注意しましょう。
また、補助金はその年度の政策に応じて設けられ、目的や補助対象となる経費も補助金によってさまざまです。昨年度には存在した補助金が今年度にはなくなっているなどということも珍しくありませんので、自社に合った補助金を見つけたら、早期に申請準備に取り掛かることをおすすめします。
助成金との違い
補助金と似た制度に、助成金が存在します。助成金も、国や地方公共団体などから返済不要なお金が受け取れる制度という点で、補助金と同様です。
では、補助金と助成金にはどのような違いがあるのでしょうか?補助金と助成金との間に明確な線引きはありませんが、一般的な傾向は、次のとおりです。
補助金 | 助成金 | |
管轄 | 経済産業省など | 厚生労働省が多い |
募集時期 | 一定期間のみ | 通年 |
補助対象 | さまざま | 雇用や人材育成などが多い |
要件を満たして申請すれば受け取れるか | 申請後、採択が必要 | 受け取れる |
ただし、必ずしもこの分類に当てはまらない補助金や助成金も存在します。また、名称は「助成金」でありながら中身は補助金に近いようなものなども少なくありません。
そのため、実際に申請を検討する際には制度の名称のみでは判断せず、公募要領などをしっかりと確認する必要があるでしょう。
農業機械の購入に使える「ものづくり補助金」とは
農業機械の購入に活用できる補助金の代表格は、「ものづくり補助金」です。ものづくり補助金とは、中小企業や小規模事業者等が取り組む革新的なサービス開発や試作品開発、生産プロセスの改善を行うための設備投資などを支援する補助金です。
ものづくり補助金は、正式名称を「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」といいます。「ものづくり補助金」と略されることが多く、この略称から製造業や建設業など「ものづくり」をする事業者しか活用できないとの誤解も少なくありません。
しかし、ものづくり補助金は製造業などのほか、農業などであっても活用することが可能です。ものづくり補助金は非常に大型の補助金の一つであり、この補助金を活用することでまとまった資金を得られる可能性があるでしょう。
ただし、大型の補助金であるがゆえに競争率も高く、申請の難易度も低くありません。そのため、申請をする際には専門家のサポートを受けるとことをおすすめします。
ものづくり補助金の公募枠と補助上限額
ものづくり補助金の一般型には、通常枠のほか、3つの特別枠が設けられています。それぞれの枠の概要と補助上限額は、それぞれ次のとおりです。
通常枠
一般型の「通常枠」とは、ものづくり補助金の基本となる申請枠です。もっとも多くの事業者が申請する枠であり、単に「ものづくり補助金」といった場合には、この枠を指していることが多いでしょう。 通常枠の補助上限額と補助率は従業員数に応じて異なっており、それぞれ次のとおりです。
従業員規模 | 補助金額 | 補助率 |
5人以下 | 100万円~750万円 | 原則:2分の1 小規模企業者・小規模事業者、再生事業者:3分の2 |
6人~20人 | 100万円~1,000万円 | |
21人以上 | 100万円~1,250万円 |
回復型賃上げ・雇用拡大枠
「回復型賃上げ・雇用拡大枠」とは、業況が厳しいながら賃上げや雇用拡大に取り組む事業者が行う、革新的な製品やサービスの開発または生産プロセスやサービス提供方法の改善に必要な設備・システム投資などを支援する特別枠です。
回復型賃上げ・雇用拡大枠の補助上限額と補助率は、それぞれ次のとおりです。
従業員規模 | 補助金額 | 補助率 |
5人以下 | 100万円~750万円 | 3分の2 |
6人~20人 | 100万円~1,000万円 | |
21人以上 | 100万円~1,250万円 |
デジタル枠
「デジタル枠」とは、DX(デジタルトランスフォーメーション)に資する革新的な製品やサービスの開発またはデジタル技術を活用した生産プロセスやサービス提供方法の改善による生産性向上に必要な設備・システム投資などを支援する特別枠です。 デジタル枠の補助金額と補助率は従業員数によって異なっており、それぞれ次のとおりです。
従業員規模 | 補助金額 | 補助率 |
5人以下 | 100万円~750万円 | 3分の2 |
6人~20人 | 100万円~1,000万円 | |
21人以上 | 100万円~1,250万円 |
グリーン枠
「グリーン枠」とは、温室効果ガスの排出削減に資する革新的な製品やサービスの開発または炭素生産性向上を伴う生産プロセスやサービス提供方法の改善による生産性向上に必要な
設備・システム投資などを支援する特別枠です。 グリーン枠の補助金額と補助率は従業員数によって異なっており、それぞれ次のとおりです。
従業員規模 | 補助金額 | 補助率 |
5人以下 | 100万円~1,000万円 | 3分の2 |
6人~20人 | 100万円~1,500万円 | |
21人以上 | 100万円~2,000万円 |
ものづくり補助金を農業機械導入に活用した事例
ものづくり補助金を農業機械の導入に活用した主な事例は、次のとおりです。ものづくり補助金の公式ホームページには採択事例が数多く掲載されていますので、こちらを確認することで、補助金活用のイメージが湧きやすくなるでしょう。
ここでは、公式ホームページで詳細な内容までが掲載されている5つの活用事例を紹介します。
耕作放棄地などを利用した季節型別農業の実施
農業を営む事業者が、休耕田や耕作放棄地を活用するため、ものづくり補助金を活用して「にんにく植付機」と「自動パック包装機」を導入した事例です。
これにより、農作業が1年を通して平準化できるようになったことから、これまでの季節労働者を正社員化することが可能となり、雇用促進につながりました。
接木ロボットの導入によるリレー生産体制の構築
農業を営む事業者が、ものづくり補助金を活用して「半自動接木ロボット」を導入するとともに、勉強会の実施など運用体制の構築を行った事例です。
これにより、野菜苗を生産する時期の拡大と安定的な生産が行える状況となりました。
河内晩柑の洗浄・選果機導入による生産能力向上
グループ会社が生産した河内晩柑の加工と出荷を行う事業者が、ものづくり補助金を活用して「オーダー選果機」を導入した事例です。
これにより、総工程時間の短縮と品質向上が同時に実現し、従業員勤務時間の平準化や今後の顧客満足度向上、出荷量拡大などが見込まれることとなりました。
干し芋の安定かつニーズに応じた供給体制の確立
干し芋の生産などを手掛ける事業者が、ものづくり補助金を活用して「温除湿乾燥機」と、個別包装に対応する「真空包装器」を導入した事例です。
これにより、こだわりの味と品質を落とすことなく、約2倍の生産量を得ることができるようになったほか、個包装にも対応したことで、顧客の満足度向上にもつながりました。
米の処理能力増強とブランド力向上
米の生産などを手掛ける事業者が、ものづくり補助金を活用して「汎用粗選機」と「中型遠赤外乾燥機」、「色彩選別機」を導入した事例です。
これにより、米の品質向上によるブランド力強化や作業の高効率化と多様なパッケージングへの対応などが可能となりました。
ものづくり補助金の最新スケジュール
ものづくり補助金は、2022年11月現在第13次の公募中です。第13次公募のスケジュールは、次のとおりです。
- 公募開始:2022年10月24日(月)
- 申請受付:2022年11月7日(月)
- 応募締切:2022年12月22日(木) 17時
- 採択発表:2023年2月中旬頃予定
また、2022年度内にあと1回公募がされる予定となっています。
ものづくり補助金を申請するためには申請内容や事業計画などの練り込みが不可欠であり、専門家へ依頼したからといってすぐに申請ができるようなものではありません。そのため、申請を希望する場合には、できるだけ早期に専門家へ問い合わせておくことをおすすめします。
なお、2022年11月に、令和5年度(2023年)のものづくり補助金の方針が公表されました。2022年11月末現時点では詳細な公募要領などは不明であるものの、令和5年度にも、ものづくり補助金が継続される可能性が高いでしょう。
スマート農業導入に使える「IT導入補助金」とは
IT導入補助金とは、中小企業や小規模事業者等が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助することで、業務効率化や売上アップをサポートする補助金です。
最近では農業の世界でもITを取り入れたスマート農業化が進んでおり、IT技術をうまく取り入れることで、生産性の大きな向上につながるでしょう。スマート農業の導入をご検討の際には、IT導入補助金の活用がおすすめです。
補助上限額
IT導入補助金の補助上限額は、それぞれ次のとおりです。
通常枠(A・B類型)
通常枠は、IT導入補助金の基本となる申請枠です。中小企業や小規模事業者等が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助することで、業務効率化や売上アップをサポートすることを目的としています。
通常枠の補助金額はそれぞれ次のとおりであり、補助率はいずれも2分の1です。
- A類型:30万~150万円未満
- B類型:150万~450万円以下
通常枠では、ソフトウェア費のほか、1年分のクラウド利用料、導入関連費が補助対象とされています。なお、A類型とB類型との違いは、次のとおりです。
A類型 | B類型 | |
プロセス(業務工程や業務種別)数 | 1以上 | 4以上 |
賃上げ目標 | 加点 | 必須 |
セキュリティ対策推進枠
セキュリティ対策推進枠は、中小企業や小規模事業者等がサイバーインシデントにより事業継続が困難となる事態を回避することや、サイバー攻撃被害が供給制約や価格高騰を潜在的に引き起こすリスクや生産性向上を阻害するリスクを低減することを目的とする申請枠です。
セキュリティ対策推進枠の補助金額は5万円~100万円で、補助率は2分の1とされています。
デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)
デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)は、中小企業や小規模事業者等が導入する会計ソフトなどの経費の一部を補助することで、インボイス対応も見据えた企業間取引のデジタル化を推進することを目的としている申請枠です。
デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)の補助上限額は5万円~350万円ですが、補助上限額はそれぞれ次のとおりです。
- 5万円~50万円以下部分:4分の3
- 50万円超~350万円部分:3分の2
この枠では会計ソフトや受発注ソフト、決済ソフト、ECソフトが補助対象とされており、これらにかかるソフトウェア購入費やクラウド利用費(最大2年分)、導入関連費の補填が受けられます。
また、ハードウェア購入費も補助対象となりますが、それぞれ次のとおり上限額が設けられています。
- PC、タブレット、プリンター、スキャナー、これらの複合機器:補助率2分の1以内、補助上限額10万円
- レジ、券売機など:補助率2分の1以内、補助上限額20万円
最新公募スケジュール
令和4年度(2022年度)分のIT導入補助金の交付申請締切日は、それぞれ次のとおりです。IT導入補助金は公募枠によって締切日が異なりますので、注意しましょう。
- 通常枠(A・B類型):2022年12月22日(木)17:00
- セキュリティ対策推進枠:2023年2月16日(木)17:00
- デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型):2023年1月19日(木)17:00
なお、2022年11月に、令和5年度(2023年度)のIT導入補助金の方針が公表されました。現時点では詳細な公募要領などは不明であるものの、令和5年度にも、IT導入補助金が継続される可能性が高いでしょう。
スマート農業導入IT導入補助金を活用した事例
スマート農業にIT導入補助金を活用した主な事例に、次のものなどが存在します。
ITツール×ドローンで森林調査人員が約80%減
林業を営む事業者が、IT導入補助金を活用し、3DGISツールである「ScanSurvey Z Pro」を導入した事例です。
その結果、調査人員を1ヘクタールあたり8名の人員を削減することが可能となり、調査コストの削減へとつながりました。
地域の特産品に特化したECサイトへの出店
地域の特産品であるエゴマを飼料に使った養鴨業を営む事業者が、IT導入補助金を活用して、ご当地グルメ特化型ECサイトである「47CLUB」に出店した事例です。
今後は、日本各地への拡販を狙っています。
農業機械の購入に補助金を活用するメリット
農業機械の購入やスマート農業化に補助金を活用することには、さまざまなメリットが存在します。補助金活用による主なメリットは、次のとおりです。
返済不要なまとまった資金が得られる
冒頭でも解説したように、補助金は原則として返済をする必要がありません。つまり、融資と違って返済をしていく必要もなければ、利息の支払いも不要です。
そのため、融資で資金調達をしたのであれば返済や利息の支払いにあてざるを得なかった資金を、さらなる事業成長への投資にまわすことが可能となります。この点が、農業機械の購入などに補助金を活用する最大のメリットです。
自身の事業を客観視する機会となる
補助金を申請する際には、事業計画書などの提出が必要となることが少なくありません。この事業計画書について、見通しが甘かったり検討すべき事項が漏れていたりすれば、採択が遠のいてしまいます。
そのため、補助金の申請にあたっては、自ずと事業計画書を練り込む必要性が生じることでしょう。
この作業は、補助金の申請のみを目的だと考えれば、面倒に感じるかもしれません。しかし、補助金申請をきっかけとして事業計画を練り込んでおくことで、自身の事業を客観視するきっかけとなります。
また、しっかりと考え抜かれた事業計画書は、以後の経営に迷った際の羅針盤として、心強い存在ともなるでしょう。
農業経営の効率化をはかる機会となる
農業機械を購入するためには、まとまった資金が必要となります。この資金を自社で捻出することが、難しい場合も少なくないでしょう。
そこで、補助金を活用することによって、農業設備などへの思い切った投資がしやすくなります。補助金を活用して新たな農業機械を導入することで、作業効率の大きな改善につながる効果が期待できるでしょう。
まとめ
ものづくり補助金は、農業機械の購入にも活用することが可能です。また、IT導入補助金を活用すれば、スマート農業の導入がしやすくなるでしょう。
自社に合った補助金をうまく活用して、事業成長のスピードアップを狙うことをおすすめします。
しかし、忙しい事業者様が、自社のみで補助金申請をすることは容易ではありません。そのため、補助金を申請する際には、専門家のサポートを受けることを検討すると良いでしょう。