「今の時代に必要そうだからやってみたけど上手くいかない」「普段の経営と違ってやるべきことが分からないから取り組めない」と感じる経営者の方も多いのではないでしょうか?
CDP CLUB JAPANの調査によると、DXが進まない理由として「経営者層の知識・理解不足」の回答割合が最も多かったことからも、経営者がボトルネックになっていることが伺えます。(impress BUSINES MEDIAより)
今回は、このDXの定義を前提としながら、DXロードマップを用いてよくある失敗例を絡めて経営者の役割について解説します。
なお、DXとは「デジタル技術を活用して、顧客に付加価値を与えられる組織・文化を創り続けること」です。DXとは何か?確認したい方は、以下の記事も併せてご覧ください。
DXロードマップ
DX推進には下の図のように、大きく分けて3つのフェーズがあります。
①各部門が個別最適でバラバラに実施 ②DX推進の集約組織の設置 ③DXを前提とした全社戦略の立案・部門間連携
はじめは各部門がバラバラにプロジェクトを進めている状態ですが、フェーズが進むにつれてDXプロジェクトが成功しやすい状態になります。さらに、DXで成長を実現するためには、全社のDXの進捗を管理し、より全社的に視点を持った上で、各部門がそれぞれの役割に取り組む必要があります。
今回はその中で、各レベル(段階)ごとの経営者の役割、必要なことについてみていきましょう。
DX推進各段階別!経営者の役割
Lv.1 各部門がバラバラに個別最適化
この段階では、各部門がバラバラにプロジェクトを実施しており、全社的な連携はとれていない状態です。目的も部門内で閉じているため課題設定が不十分になり、DXが目的化して失敗しやすいです(DXのよくある失敗について詳しくはこちら<参考記事リンク>)。
この段階において経営者が行うべきことは、 1.DXに対する経営者の意識改革 2.アジャイル型のマインドセットを持つ 上記の2つです。それぞれ解説していきます。
1.DXに対する経営者の意識改革
DXを自社で始める前に、経営者は「DXの必要性」を正しく理解する必要があります。
では、「DXの必要性」とは何でしょうか?
1つ目に、外部環境の急速な変化が挙げられます。代表的な例としては、新型コロナウイルスの流行やAI技術発展による社会の変化です。このような変化に伴い、顧客のニーズも変化していきます。企業は変化し続ける顧客のニーズを継続的に満たし続けるために、企業も変化する必要があります。
しかし、現場は通常業務が忙しいため、現場単位で分析して変化し続ける余裕はありません。そこで、DXという「ヒト・組織の変革」専門のプロジェクトに取り組むことで、外部環境の変化に対応することが可能になります。
2つ目に、DXに取り組まないリスクが挙げられます。例えば、時代の変化に対応した商品を提供し続けることができる会社と、時代の変化についていけなかったり、一度ヒットした商品に固執する会社では、長期的に見てどちらが成功するかは明白です。また、商品を改善し続ける組織づくりができていれば、利益を再投資してより働きやすい環境が整備できます。
2.アジャイル型のマインドセットを持つ
DXに取り組む際の意識として、「アジャイル型のマインドセット」は大切です。アジャイルとは、不確実性の大きいものを、素早く効率よくコントロールするという概念です。
従来型のプロジェクト立案では、最初にしっかりした計画を立て、その通りに実行するという方法が主流でした。しかし、現代は社会が急速に変化しているため不確実性は大きくなり、計画通りに実行するだけでは成功するかどうか分かりません。
そこで、最初に大まかな方針を決め、実行しながら学び、少しずつ修正しながらゴールに向かうという方法が必要です。この方法の基になる考え方が、「アジャイル型のマインドセット」です。DX推進という観点で、特に重要なポイントは3つあります。
1.顧客への付加価値を追求 2.スピード感を持った仮説検証 3.チームでの学習を重視
今回は詳しい説明を省略しますが、これらの意識が多くの社員にあるかどうかでそれに伴う行動が変わり、DXの成功を大きく左右します。
Lv.2 DX推進の集約的組織設置
Lv.2では、DXへの取り組みを全社的に本格化していくフェーズです。Lv.1とは違い、全社員がDXについて本質や必要性を理解し、DX推進の集約的組織が設置され、経営レベルでDXへの取り組みが始まる状態です。この段階に移るための経営者の役割は、
1.社員にDXの必要性を自分の言葉で伝えること 2.DX推進の組織体制パターンを決めること 以上の2つです。それぞれ解説していきます。
1.社員にDXの必要性を自分の言葉で伝える
DXは全社ゴトの取り組みです。経営者がリーダーシップをとって推進する必要があります。そのためには、「トップダウンで必要性を伝えること」と「中長期のビジョンを伝えること」が大切です。
DXの必要性はLv.1で前述したとおりですが、「DX」というビジネス用語が耳慣れない方にとっては敬遠されがちです。しかし、DXは「顧客へ付加価値を与えるための方法」と考えれば、「お客様に喜んでもらうこと」という現場の目標と同じであり、特別なものではありません。トップダウンで経営として本気で取り組むことを全社員に伝えることで、社員のDXに対する意識改革を行いやすくします。
「中長期のビジョンを伝える」とは、「経営者と現場で、会社としての明確な理想像を揃える」ということです。明確な理想像があれば、現状とのギャップから課題が見えてきます。これにより、社員は各自の目標を定めることができるため、DXを他人事ではなく自分事として捉えるようになり、全社ゴトの取り組みになります。
2.DX推進の組織体制パターンを決める
前述したように、現場は通常業務で忙しいため、DX推進にはプロジェクトの司令塔となる専門の組織が必要です。組織体制パターンには、上記の図に示した4つのパターンがあります。
この中でも特におすすめでメジャーなパターンは、①経営直下の統括組織です。経営とDX推進組織で全社的なプロジェクト推進をリードしていく形です。
これは、社内の複数の部門でDXを推進する際に有効なパターンです。DX推進をする際に、事業部門とのコミュニケーションロスや摩擦がどうしても発生します。このときに、経営も含めてリードしていくことでより早くプロジェクトの推進を可能にします。
Lv.3 DX戦略の立案・部門間連携(全社最適)
DX戦略を立案し、各部門が連携しながら全社最適な行動がとれている状態です。そのため、プロジェクトが次々に進み、成功するものが増えていきます。ここでの経営者の役割には、
1.経営戦略と整合性のあるDX戦略の立案 2.中長期のROIで投資判断
上記の2つがあります。
1.経営戦略と整合性のあるDX戦略の立案
DX戦略を立案する際には、最初に経営課題を探す必要があります。探し方として、まずは顧客に付加価値を与えるためのプロセスを考えます。プロセスは大きく分けて、1.業務効率化、2.提供価値の向上の2つがあります。
それぞれに含まれる具体的な課題を考え、重要度の高い経営課題を選択してDXで取り組むテーマを決めます。(重要度の経営課題の選定方法について詳しくはこちらをご覧ください。)このとき、経営戦略とダブルスタンダードにならないために、整合性がとれているか注意します。
例えば、「売上が減少傾向」という経営課題を選び、「提供価値の向上」をテーマとして設定したとします。
次に、テーマから逆算して具体的なプロジェクトを洗い出して優先順位をつけ、その上で、3~5年の中長期の計画を立てます。このときも、アジャイル型のマインドセット心がけ、大筋の計画を立てることがポイントです。年ごとに達成したい目標をロードマップにするようなイメージです。
DXでは「解決すべき経営課題を決め、プロジェクト選定をする」というフェーズはプロジェクトの成否を大きく左右するほど重要です。経営戦略において、「自社の技術を見せるための商品開発を行ったが顧客のニーズに対応していなかったために全く売れなかった」という失敗と同じように、DX戦略においても「周りの会社につられてデジタル技術を取り入れたが、自社には必要ないシステムだったため全く使われなかった」という失敗は非常に多いからです。
2.中長期のROIで投資判断をする
DXの取り組みは初めての試みが多い上に人や組織の変革を伴うため不確実性が高く、短期では成果を出しにくいため、中長期のROIで投資判断を行います。このことから、「多産多死スタイルの想定」と「組織・文化への投資」という考え方が大切です。
多産多死スタイルの想定
多産多死スタイルでは、成功すれば他のプロジェクトの投資分を回収できるほどのプロジェクトを企画する必要があります。「そんなに多く失敗するのに本当に都合よくどれかが成功するのか」と不安に思う方もいるかもしれませんが、多産多死スタイルはあくまで計画段階での悲観的な想定です。
プロジェクト選定や要件定義をしっかり行っていれば成功率は高くなるため、想定以上に成功数が多くなることもあり得ます。
組織・文化への投資
世の中にあるデジタル技術を活用してDXプロジェクトに取り組む人は、自社の社員です。しかし、デジタル技術に理解がなければ解決方法としての最適な技術や必要なコストが分かりません。よって、エンジニアに限らずデジタル技術に強い人材を育成する必要があります。
また、Lv.2で述べたアジャイル型のマインドセットを持てる仕組みを整備し、「失敗してもいい」環境づくりを行うことも重要です。
まとめ
DX推進における経営者の役割をおさらいすると、以下のようになります。DXには難しいイメージがあった方もこのように経営者の役割だけを考えると、意識改革やDX戦略立案などは、普段行っている経営と似ているところがあると感じるかもしれません。これは、会社の目的とDXの目的は「顧客へ付加価値を与えるため」という点で同じだからです。