IT導入補助金とは、中小企業や個人事業主が事業の課題解決のためにITツールを導入する際に受けられる国からの補助金です。2017年からスタートした制度で、2023年度(令和5年度)もすでに公募が始まっています。この記事では、2023年度のIT導入補助金の対象となる事業者やITツール、申請の流れについて解説していきます。
1.IT導入補助金の対象
まずは、IT導入補助金の対象となる事業者とITツールについて押さえておきましょう。
1-1.対象となる事業者
IT導入補助金を受けられるのは、「中小企業」および「小規模事業者」です。どのような事業者を「中小企業」や「小規模事業者」と呼ぶかについては、業種や組織形態に応じて資本金・従業員数の規定が定められています。
■申請の対象となる中小企業・小規模事業者・個人事業主
【中小企業】
資本金 | 従業員 | |
製造業、建設業、運輸業、ソフトウエア業又は情報処理サービス業 | 3億円 | 300人 |
卸売業 | 1億円 | 100人 |
サービス業(ソフトウエア業、情報処理サービス業、旅館業を除く) | 5000万円 | 100人 |
小売業 | 5000万円 | 50人 |
旅館業 | 5000万円 | 200人 |
その他の業種(上記以外) | 3億円 | 300人 |
【小規模事業者】(※個人事業主を含む)
商業・サービス業(宿泊業・娯楽業除く) | 常時使用する従業員の数 5人以下 |
サービス業のうち宿泊業・娯楽業 | 常時使用する従業員の数 20人以下 |
製造業その他 | 常時使用する従業員の数 20人以下 |
なお、過去のIT導入補助金では、次の通りさまざまな組織形態の事業者が申請を行っています。
・株式会社 ・有限会社 ・合同会社 ・合名会社 ・合資会社 ・特定非営利活動法人(NPO 法人) |
・一般社団法人 ・一般財団法人 ・学校法人 ・公益社団法人 ・公益財団法人 など |
株式会社や有限会社だけでなく、NPO法人や一般社団法人など幅広い団体が本補助金制度を利用しています。
1-2.対象となるITツール
IT導入補助金の対象となるのは、ソフトウェアの購入費やクラウドの利用料、導入にかかった関連費です。各枠によって対象となる経費が異なるため、下記の表で確認しましょう。
通常枠 | セキュリティ対策推進枠 | デジタル化基盤導入枠 | ||
A類型 | B類型 | デジタル化基盤導入類型 | ||
補助対象経費区分 | ソフトウェア購入費・クラウド利用料(最大2年分)・導入関連費 | サービス利用料(最大2年分) | ソフトウェア購入費・クラウド利用料(最大2年分)・導入関連費・ハードウェア購入費 |
2.「IT導入補助金2023」の概要
2023年度のIT導入補助金は、3月下旬より1次募集が開始されています。補助金は大きく分けて4つの区分が設けられており、それぞれ対象となる経費や補助額が異なります。ここからは、枠別の制度概要について確認していきましょう。
【通常枠(A・B類枠)】
IT導入補助金の通常枠はA類枠とB類枠に分けられており、補助額や必要となるプロセス数が異なります。
A類型 | B類型 | |
補助金額 | 30~150万未満 | 150~450万以下 |
補助率 | 1/2以内 | 1/2以内 |
プロセス数 | 1種類以上 | 4種類以上 |
賃上げ目標 | 加点項目 | 必須要件 |
参考:一般社団法人サービスデザイン推進協議会「IT導入補助金2023公募要領」
クラウド利用費について、2022年度までは1年分が対象経費となっていましたが、2023年度より最大2年分へと拡大されています。
【※プロセスとは?】
補助金の対象となるITツールは、次のような業務プロセスを担っています。
・顧客対応・販売支援 ・決済・債権債務・資金回収 ・調達・供給・在庫・物流 ・会計・財務・経営 ・総務・人事・給与・労務・教育訓練・法務・情シス ・業種固有プロセス ・汎用・自動化・分析ツール |
たとえば、通常枠A類型の場合は必要なプロセス数が1以上となっているため、上記のプロセスのうち必ず1つ以上の業務を担うITツールを導入しなければなりません。
【セキュリティ対策推進枠】
セキュリティ対策推進枠は、サイバー攻撃被害への備えとしてセキュリティサービスを導入する際に利用できる補助金です。
セキュリティ対策推進枠 | |
補助額 | 5万円~100 万円 |
機能要件 | 独立行政法人情報処理推進機構が公表する「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されているいずれかのサービス |
補助率 | 1/2以内 |
対象経費 | サービス利用料(最大 2 年分) |
参考:一般社団法人サービスデザイン推進協議会「IT導入補助金2023公募要領」
セキュリティ対策推進枠では、「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されているセキュリティサービスが補助の対象となります。対象となるセキュリティサービスには、「ネットワーク一括監視型」のものや従業員が利用する端末に導入する「端末監視型」などさまざまな種類がありますので、自社に適したセキュリティの導入を検討してみましょう。
【デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)】
デジタル化基盤導入枠のデジタル化基盤導入類型では、会計ソフトや受発注ソフトなどのソフトウェア導入費に加えて、PC・タブレットやレジ・券売機などのハードウェア導入費も補助の対象となります。
デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型) | ||||
補助額 | ITツール | PC・タブレット | レジ・券売機 | |
下限なし~350万円 | ~10万円 | ~20万円 | ||
内、~50万円部分 | 内、50 万円超~350 万円部分 | |||
機能要件 | 会計・受発注・決済・EC のうち1機能以上 | 会計・受発注・決済・EC のうち2機能以上 | 左記ITツールの使用に資するもの | |
補助率 | 3/4以内 | 2/3以内 | 1/2以内 | |
対象経費 | ソフトウェア購入費、クラウド利用費(クラウド利用料最大 2 年分)、ハードウェア関連費、導入関連費 |
参考:一般社団法人サービスデザイン推進協議会「IT導入補助金2023公募要領」
本枠では、インボイス制度への対応によるITツールの導入も補助の対象となっています。レジや会計ソフトの刷新を予定している事業者は、自社で受けられる補助金はないかチェックしてみましょう。
なお、デジタル化基盤導入類型では、導入するITツールによって補助率や補助額が異なります。IT導入補助金の公式サイトにて申請できる補助金のシミュレーションができますので、事前に確認しておくことがおすすめです。
【デジタル化基盤導入枠(複数社連携IT導入類型)】
デジタル化基盤導入枠の複数社連携IT導入類型は、複数の中小企業が連携してITツールを導入する際に受けられる補助金です。
複数社連携IT導入類型 | |
補助額 | (1)デジタル化基盤導入類型の対象経費⇒左記と同様 (2)上記(1)以外の経費 ⇒補助上限額は 50 万円×グループ構成員数、補助率は 2/3 以内 ((1)+(2)の補助上限額は 3,000 万円) (3)事務費・専門家費⇒補助率は 2/3以内、補助上限額は((1)+(2))×10%に補助率 2/3 を乗じた額若しくは 200 万円のいずれか低い方 |
対象経費 | ソフトウェア購入費、クラウド利用費(クラウド利用料最大 2 年分)、導入関連費 |
参考:一般社団法人サービスデザイン推進協議会「IT導入補助金2023公募要領」
本枠では、ITツールの導入によって地域DXの実現や、生産性の向上を目指す取り組みについて補助金の支援が受けられます。たとえば、過去には地域のデジタル通貨・キャッシュレス決済の導入を行った商業協同組合に対して補助金支援が行われました。
3.申請から導入までの流れ
IT導入補助金の申請は次の流れによって行います。
1.導入したいITツールの決定 2.「gBizIDプライム」アカウントの取得 3.「SECURITY ACTION」の実施 4.交付申請 5.交付の決定 6. ITツールの発注・契約・支払い 7. 事業実績報告 8.補助金交付手続き |
IT導入補助金を受けるにあたって、「gBizIDプライム」アカウントの取得や、「SECURITY ACTION」の実施が必要となります。「SECURITY ACTION」とは、情報セキュリティ対策に取り組むことを宣言する制度です。アカウントの発行には2週間程度かかるため、早めに申請手続きを行うことを心がけましょう。
また、補助金を受けたあとは、ITツールの導入によってどれくらいの効果が出たか報告を行うよう定められています。報告には期限がありますので、必ず期限内に効果報告を行いましょう。
なお、2023年度の1次締切分のスケジュールは下記の通りです。
6次締切日 | 2023年10月2日 (月) 17:00 |
交付決定日 | 2023年11月6日 (月) (予定) |
事業実施期間 | 交付決定~2024年4月30日 (火) 17:00 |
事業実績報告期限 |
2024年4月30日 (火) 17:00
|
2022年の募集では、デジタル化基盤導入枠のデジタル化基盤導入類型で19次募集まで行われました。募集スケジュールは確定分より順次公開されますので、1次募集以降分についてもチェックしておきましょう。
4.IT導入補助金はネットショップ構築にも活用可能
前述の「デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型・複数社連携IT導入類型)」ではECソフトも補助対象となっているため、ネットショップやECサイトの構築に活用することができます。過去には、ECサイトの新規構築を通じて業務効率化に成功した例も見られました。
【大友産業株式会社様】 ・導入したITツール「楽楽リピート」(※) ・自社サイトで食品通信販売を行っていたが、新聞広告やカタログからの注文が多い状況。IT導入補助金をきっかけに新しいECサイトの構築を行い、受注・発送業務の効率化にも成功。 |
参考:独立行政法人中小企業基盤整備機構「大友産業株式会社」
(※過去の導入事例のため、2023年IT導入補助金の対象ソフトとは異なる場合があります)
なお、ネットショップの導入にあたっては「IT導入支援事業者」に依頼することが条件となっています。IT導入支援事業者以外が作成したネットショップは対象外となるため注意しましょう。
IT導入支援事業者は下記ページから検索できますので、参考にしてみてください。もちろん、補助金の窓口からご紹介も可能です。
一般社団法人サービスデザイン推進協議会「IT導入支援事業者・ITツール検索」
また、ECサイトの導入にかかるコンサルティング費用や保守サポート費用も、IT導入補助金の対象となります。最大で350万円の補助金が受けられる制度ですので、ぜひこの機会にECサイトの構築を検討してみましょう。
5.まとめ
IT導入補助金では、ソフトウェアの導入費やクラウドの利用料に加えてハードウェアの購入費も補助の対象となります。各枠によって補助の対象となるツールや補助額が異なるため、自社で利用できる補助金はないか検討してみましょう。