新型コロナウイルスの影響で、テレワークが増え、オフィスの在り方について見直し始めた企業も多いのではないでしょうか。
そんな中、オフィスを縮小し、コスト削減をしながら多様化する働き方に対応できる、サードプレイスの活用が注目されています。
本企画では、オフィスの現状から、オフィスの種類や特徴、そして事例を基にしたコストシミュレーションなどについて紹介していきます。
※本記事は『月刊総務』2021年9月号総務のマニュアル「コスト削減とワークプレイスの多様化を実現する サードプレイスの活用」に執筆したものです。
オフィスの現状
新型コロナウイルスがもたらしたオフィスへの影響と変化
新型コロナウイルスが国内で初めて感染確認がされてから、すでに一年半以上が経過しました。「ソーシャルディスタンス(社会的距離)」という言葉とともに、人との間隔が意識されるようになり、感染症対策が行われるようになって、オフィスの在り方も大きく変化を遂げました。
まず、オフィスの在り方にもっとも変化を与えた要素は、「テレワーク(在宅勤務)」ではないでしょうか。「働く場所=オフィス」という当たり前の概念が覆され、「自宅で働く」という働き方がニューノーマルとなりました。
東京都産業労働局によると、2021年3月時点で24.0%だった都内のテレワーク実施率は、2021年2月には64.8%にまで増加。新型コロナウイルスの影響で、一気にテレワークが普及したということがわかります。
参考「産業労働局」https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2021/05/07/10.html
テレワークは、新型コロナウイルスという一時的な脅威への対策として行われましたが、当社の調査によりますと、52.3%が「継続したい」、35.1%が「やや継続したい」と回答しており、主に「通勤」を苦痛に感じていた人たちから、大きな支持を得ています。
調査レポートは下記よりダウンロードが可能です。
新たな働き方としてのテレワークの課題とオフィスの多様化
ニューノーマルとなり、支持を得始めている「テレワーク(在宅勤務)」ですが、一方で、一人ひとりの意見を細かく聞いてみると、実は課題もあります。
まず問題なのがファシリティです。「通信速度の速いWi-Fiがない」「適切な椅子や机がなく腰が痛い」「モニターやプリンターがないため作業ができない」などです。物理的なファシリティは企業が金銭補助をして整えられたとしても、家の間取りやメンタルに問題が出てきます。
たとえば、一人暮らしの人の場合、週七日仕事空間とプライベート空間が一緒になってしまうため、リラックスができない状況になり、心身の不調を訴える人が増えてきています。
また、1LDK程度の間取りに複数人で暮らす場合、全員がテレワークになると、オンライン会議を行うことが難しく、ストレスになるようです。自宅以外でも営業の合間にオンライン会議が設定されるようになったため、外でもWi-Fiおよびセキュリティが充実した環境でオンライン会議に参加できるタッチダウンオフィス環境などが必要になりました。
一方、企業としても出社率が下がる中で、床面積を削減する動きが高まり、実に半数を超える企業がオフィスの移転・縮小・解約を検討しているという調査結果もあります。しかし、大型オフィスの多くは定期借家契約になりますので、新型コロナウイルスの影響で事業に対する打撃がある中で、大きな固定費となるオフィスの解約がすぐには行えません。
こうした状況によって、経営側も大きな不安を抱える事態となっています。
そのため、本社機能以外のサテライトオフィスを作ったり、柔軟に追加、解約ができるシェアオフィス、フレキシブルオフィスを活用したり、はたまた時間単位で借りるタッチダウンオフィスや貸し会議室を活用したりと、用途や契約期間、契約形態に応じたポートフォリオを組むことで、リスクを抑えつつ、従業員にとって生産性が高く心地よい働き方を支える必要が出てきています。
オフィスの種類と活用のポイント
オフィスの種類や契約方法、利用する際のポイントなどについて紹介します。
セントラルオフィスの種類や契約方法
オフィスの環境やニーズが変化していく中、自社の賃貸オフィスを解約・縮小・移転するとともに、サードプレイスオフィスを活用する形が増えてきています。ただ、ひとくちにサードプレイスオフィスといっても、契約形態、使い方、オフィスの形などによって多種多様です。ここではまず主要の場所として利用する、セントラルオフィスの種類について整理していきましょう。
まずは、すべての基本となる会社の中心施設、セントラルオフィスの賃貸について特徴をまとめていきます。
一般的に企業がオフィスを借りる場合、オフィス仲介業者を介すことになります。通常の場合、オフィスはスケルトンの原状回復済みの形で借りる場合が一般的であり、そこから内装工事を行ってオフィスをデザイン・施工して利用開始となります。
契約の形態には、普通借家契約と定期借家契約があります。普通借家契約とは、いわゆる契約期間ごとに更新が可能な契約であり、一般的なオフィスはほとんどこの契約になります。解約予告期間が設定されており、その期間を守れば、自由に中途解約ができることとなります。一般的には、オフィスの契約は二年契約が多い傾向にあります。
一方で定期借家契約とは、定められた契約期間が終了すると同時に契約が終了となり、借り主は物件を明け渡さなくてはならない契約形態です。契約更新という概念はありませんが、借り主、貸し主ともに入居延長の合意があれば新たな賃貸借契約を締結することになります。定期借家契約は、①建て替えや取り壊し、再開発の予定がある場合、②貸し主が大手で契約を定期借家契約で統一している場合(三菱地所、森ビル、森トラストなど)があります。そのほか、普通借家契約でも、フリーレントなどが付く場合は、中途解約を認めない場合などが見られます。
また、最近ではいわゆる居抜きオフィス・セットアップオフィスが流行しています。オフィスデザインを考えて内装を凝ったとしても、成長速度が速い企業にとってはすぐに移転を余儀なくされ、移転のたびにデザイン施工費用と現状回復費用がかかることになります。
居抜きオフィス・セットアップオフィスでは、オフィスの内装(間仕切り、受付、会議室、什器等)があらかじめ用意されたデザイナーズオフィスとなっており、原状回復義務が免除されることが多く、クリーニング費用のみがかかる形が多くなります。
そのほか、人数が5~10人規模ですと、サービスオフィス、レンタルオフィスを利用することも多いです。
先に紹介した契約形態ですと、敷金が3~12か月分と膨大になりますが、レンタルオフィスは敷金がないので、初期費用を抑え、「すぐに使える状態」でオフィスを借りられます。内装や什器、通信インフラといったオフィスを新設する際に必要となる設備がすでに整った状態であるため、イニシャルの時間や手間を大幅にカットできるのが特徴です。
また、費用面では、初期費用と月額費用が発生する形が一般的です。この形態の場合は、基本的には社内のメンバーが日々就業して業務を行う専有スペースを持ち、共有スペースや会議室などをシェアすることで全体的なコスト効率を上げることができます。また、共有部分があることでフレキシビリティーが確保され、ちょっとした人数拡大にも柔軟に対応できるようなメリットがあります。
代表的なものには、リージャス、野村不動産の(エイチワンオー)、などがあります。グレードが上がると、ドリンクサービスやビール飲み放題などのサービスが付いたり、コミュニティーマネージャーが企業同士をマッチングしてくれるなどの機能を付加価値として提供するところも増えてきています。
1、2人規模になると、専有スペースの必要性が薄れてくるため、シェアオフィスやSOHO(SmallOfficeHomeOffice)、コワーキングスペースで、基本的にフリーアドレスの席を利用することになります。シェアオフィスによっては個別のブース席(個室ではないが自分専用のシート)を用意しているところもありますし、個室を用意しているケースもありますが、基本的には専有スペースを持たないものを指します。
定義は使われ方によって異なりますが、一般的には会員間での交流を促進するようなフリーランスなどが集まっているものをコワーキングスペース、個人事業主が個別に仕事をしているような形態をシェアオフィス、SOHOなどと呼ぶ傾向にあります。
また、バーチャルオフィスという形態も存在しますが、この場合は、登記を行うために住所を借りることを主目的にしているケースが多いです。ワークスペースは利用しないものの、業務に最低限必要な住所や電話番号などをオフィスに入居せずに借りることができ、郵便物や電話が、バーチャルオフィスに来た場合は、あらかじめ指定した住所や電話番号に転送される仕組みになっています。また運営事業者によっては、オプションとして会議室やビジネスブースなどを利用できることもあります。
いわゆる月額制のオフィスのみを取り出しても、これだけの種類のオフィスや契約形態が準備されており、必要性に応じてフレキシブルに契約形態を組み合わせながら使うことで、働き方に合わせたオフィスの設計ができます。
主要なセントラルオフィス以外にも通勤の利便性を鑑みた上でのサテライトオフィス・サードプレイスオフィスを構築することで、分散型ではあるものの日々集合して働くような形態をセントラルオフィスと組み合わせて考えているような企業も増えています。そのような場合には、すべての拠点に敷金や初期費用を投資するのが現実的ではないため、サービスオフィス・レンタルオフィスや、シェアオフィス・SOHO・コワーキングスペースを活用することになることが多いようです。
また、プロジェクトのような一時的な利用のためにオフィスを構える場合があります。たとえば、新卒のプログラミング研修のために三か月だけ利用したい、一時的な拡大前のコールセンターで解約の際のリスクマネジメントを伴うプロジェクトでオフィスを利用したいといった場合には、解約事前告知義務がなかったり、週単位・日単位で契約するレンタルスペースを長期利用、活用することなどが考えられます。このような交渉は相対では難しいため、会議室手配などを行っているサービスを活用するといいでしょう。
一日・時間当たりのレンタルができるオフィス形態
さらに、特に新型コロナウイルスの発生以降、「セントラルオフィス」「テレワーク(在宅勤務)」「サテライト・サードプレイスオフィス」だけではなく、さらなる分散型の柔軟性を求めたオフィス形態が注目されています。それは、「タッチダウンオフィス」と呼ばれる、一日ごと、時間ごとに利用できる形態のオフィスです。
CHAPTER1でも説明した通り、新型コロナウイルスの流行により、テレワークやオンライン会議がニューノーマルとなった今、在宅勤務のみでは精神衛生が保てなかったり、ファシリティとしての設備の不十分性により家では十分な仕事の満足度や効率性を得られなかったりするため、そのような従業員に対し、自宅近辺に働きやすいファシリティとしてのフレキシブルオフィスを提供する企業が増えています。
また今までは、営業の合間にたびたびセントラルオフィスに戻って資料を印刷するなど移動時間を有効に活用できていなかったところ、合間に資料の印刷やオンライン会議に参加するといった効率化を目指すために、フレキシブルオフィスを契約する企業も目立ってきています。このような場合、これまではカフェなども利用されていましたが、十分なサイバーセキュリティが担保されずに個人情報が漏れる事件が起きたり、機密情報を不特定多数が出入りする場所で話すことのリスクがあることなどから、法人登録会員制でかつ特定多数のみが出入りでき、Wi-Fiなどのセキュリティや音漏れなどに配慮されたタッチダウンオフィスの需要が急速に高まっています。
発展系として、テレキューブやSTATIONBOOTHなどの個室ボックス型施設がスマホから予約できたり、ビジネスホテルやカラオケボックス、漫画喫茶などがもともと用意されていた個室空間を、デイユースや時間貸しで貸し出すなどの形態も出てきています。
さまざまなタッチダウンオフィスが供給されてきている一方で、それらの企業利用については、まだまだ課題も残っています。タッチダウンオフィスは、その特徴からして、各従業員の自宅近辺や営業先の近辺に存在しており、その都度探して予約、利用料金を立て替え、経費精算をするまでをそれぞれが行うと、管理業務が煩雑となり、利用のハードルが上がります。大手が提供しているタッチダウンオフィスサービスは法人契約が必要なので、契約後は管理画面や予約画面が提供され、従業員が会社の経費でタッチダウンオフィスを使うことができます。
一方で、サービス提供各社は独立してサービス提供を行っているため、利用企業はそれらの利便性を享受するためには、契約を複数社としなければならず、管理機能や請求、予約機能も各提携サービスによってバラバラとなってしまい、管理の負担が膨大になってきています。
また、タッチダウンオフィスとして使われる個室などの供給不足もあり、予約しようとしても埋まっていたりと、まだまだ利用に際するハードルが高い状況です。直近では、それらのサービスを束ねる形で、初期費用などもかからずに従量課金だけで利用できる管理機能や予約機能をまとめたプラットフォーム型のサービスも登場しています。
各社との契約が面倒な場合には、そのようなプラットフォーム型サービスを利用することで、一括管理をするのもよいかもしれません。代表的なサービスとしては、当社の叡知オフィスクラウドなどがあります。このように、オフィスとひとくちにいっても、多種多様な種類と契約形態があり、総務部が戦略的にオフィス契約を設計することで、より柔軟かつ生産性および満足度の高い従業員の働き方のサポートが可能になります。テレワークが当たり前になる中で、いま一度オフィスの在り方については見直してみるのもよいかもしれません。
フレキシブルオフィスの利用に際してのチェックポイント
最後に、フレキシブルオフィスの利用に際して、注意しておくべきポイントをまとめてみたいと思います。
フレキシブルオフィスについては、契約形態などのソフトな面については、各事業者が柔軟性を持たせながらメニュー開発をしてきたため、ユーザー側のさまざまなニーズに合わせて組み合わせをすることで、利用をしやすい面が担保されてきたといえます。
一方で、フレキシブルオフィスはフレキシブルといえども、オフィスや家具についてはセットアップした状態で提供されますので、ハード面のファシリティについては、柔軟性を持たせるには限界があります。また、運営者側には、消防法による規制やコストコントロールの必要性などから提供できている施設とニーズが合わない場合などがあります。
フレキシブルオフィスの選定に当たっては、そのような事情を考慮しながら、ソフト面のみでなく、ハードファシリティ面についてもチェックをして、最適なオフィス空間を選択する必要があります。
もっともトラブルになりやすいのが 声や情報セキュリティについてです。 たとえば、タッチダウンオフィスには、 完全個室型、キューブ型、ブース型、 ボックス型、オープンスペース型、会 議室型などが存在します。 すべてのタイプを一つの施設に併設 している施設もありますが、多くの場 合は、ブース型のみで会話を禁止して いるいわゆる図書館の自習室のような タイプの施設で、途中電話がかかって きた際には結局外に出て電話や会議を しなくてはならないケースがありま す。
コワーキングスペースとうたってい るような施設の場合は、コラボレーシ ョンを促進することを目的としていま すから、すべてオープン席となってお り、オンライン会議などを実施する際 には情報漏えいに気を付けなければな らなくなります。
一方で、すべてが個室型となると、 狭い空間で一日中作業というのも気が 詰まる場合もあるでしょう。このよう に業務といっても、一日の中で多様な シーンがありますので、多様な用途に 対応できる設備を有している施設を選 択する必要があります。
次に、トラブルになりやすいのが同 伴者の帯同です。ゲストを呼びたい場 合に会員登録や初期費用を払わないと 使えなかったり、費用を入り口で別途 支払う必要があるケースなどは、お客 さまに気まずい思いをさせることにな ります。そのような点も考慮の上で、 通常の業務に差し支えのない適切なス ペースを選択して利用していく必要が ありますが、すべてを個人が把握する のは難しく、そのようなスペース選定 をコンシェルジュがサポートしてくれ るプラットフォーム型サービスも注目 されています。
コストシミュレーションと各サービスの特徴
事例を見ながらコストシミュレーションをするとともに、代表的なフレキシブルオフィスの特徴を比較していきます。
オフィスポートフォリオ戦略を立ててコストシミュレーションをする
次はコストについて検討していきましょう。自社にとって、どのようなオフィスポートフォリオが従業員のニーズや働き方と合致し、コストメリットがあるのかを含めて適正なポイントを考えるのが戦略総務の役割です。実際の事例を見ながら、シミュレーションをしてみたいと思います。次に挙げるような場合を想定してみます。
●従業員は100人。コロナ前は全員出社の固定席
●1,000平方メートルのオフィスを都内に設置済み
●出社率は現在二〇%で、一部固定的な部署(10人)が出社
●今後についても原則テレワークとしてDXを推し進める方針。オフィスは縮小
●家で働くことに難しさを感じている従業員は10人
●通勤費負担は、現在平均月額15,000円
このような状況の場合、まずはセントラルオフィスの設計から始めましょう。テレワークを主とする場合、セントラルオフィスは、出社時のみの使用になりますから、ABW(ActivityBasedWorking)やフリーアドレスを導入することにします。一方、書類等での業務を必要とする管理部門(固定的に出社をしている部門)や、部署内でのコミュニケーションを重要視したい開発部門などは固定制とします。
固定制は15席として、フリーアドレス席を35席、出社率が50%まで増えた場合にも対応ができるようにしていますが、約400平方メートルに収めることができ、3年単位で9,000万円のコスト削減に成功しました。さらに、テレワークを主とする従業員については、通勤費を定期代から実費精算に変更することで、一人当たり月額15,000円だった交通費を8,000円まで下げることができ、月に56万円(80人×7,000円)の削減に成功しました。
また、フレキシブルオフィスプラットフォームの会員(初期費用・月額費用0円)となり、家で働きにくい従業員(10人)に対し週二回フレキシブルオフィスの利用(3,000円/日)を許可することで、月に24万円のコスト(10人×3,000円×8回)で従業員をケアする先進的な会社としてアピールでき、ロイヤルティーを獲得することができました。
さらに、フレキシブルオフィスの活用を推進することで、営業部門は本社に戻って仕事をする移動時間がなくなり、一日当たりの対応可能アポイント件数が4件から6件に増える結果になりました。
これらの生産性アップとコスト削減によって手に入れたキャッシュを、さらにテレワークを主とした形でも社内業務が回るように、電子契約システムやクラウドフォン、従業員間コミュニケーションを促進するようなチャットサービスなどのDXシステムに投資することで、社内の生産性を大幅にアップすることができる好循環に入りました。
環境の変化をレバレッジし、投資のミックスを自在に変化させて、変化のメリットを享受する。従業員の満足度を上げながらも、デメリットをその他のサービス活用でうまく解消し、ポートフォリオをコントロールしていくのが、テレワーク時代における理想の形であり、戦略総務の役割ではないでしょうか。
具体的なフレキシブルオフィスの比較と相場
それでは、フレキシブルオフィスサービスの具体的な比較と相場について検討していきましょう。企業がテレワーク対応でフレキシブルオフィスの採用をする際に、検討される代表的なサービスをご紹介します。
▼H1T(エイチワンティー)
野村不動産が提案するこれからの働き方とオフィスの在り方にフィットした法人向け時間貸しワークスペース。
用コストは低くても、内装にオフィスっぽさのない上品で清潔感があるこだわり。コーヒーサーバーやオープンスペースのあちこちにグリーンを配置。オープンスペースに加え、施錠可能なブース席や二人用から一二人用までの会議室も備える。集中しての作業はブース席で、オンラインミーティングや打ち合わせは会議室でといった具合に使い分けも可能。
▼ZXY
ザイマックスが2015年に開始した、多様な働き方の実現を支える企業専用仕様のサテライトオフィスサービス。セキュリティ面はもとより、オンラインでの業務生産性にも配慮した個室型オフィスを数多く配するファシリティや、職住近接を高度に実現する立地と拠点数にこだわる。
▼NewWork
東急が運営する店舗数を誇る法人企業相乗り型サテライトシェアオフィス。新しい働き方への対応、ワーク・ライフ・バランスの推進、生産性の向上、通勤ストレスの軽減など、より快適で働きやすい環境の実現を目指している。月額定額プランと従量課金プランが用意されている。
▼WORKSTYLING
三井不動産が運営するワークスタイリングは、法人向けシェアオフィス、レンタルオフィス。全国に拠点があり、好立地の環境に展開。他社と比べるとハイグレードで高価格帯。
▼日経オフィスパス
月額15,258円で、都内を中心に全国約300か所以上のコワーキングスペースの自由席がいつでも何度でも利用できる。ただし、定額制なので施設によっては土日だけが利用できたり、一日一回4時間までなどの制限が付いている拠点が多いため、利用に注意が必要。オープンスペースがメインで、不特定多数が出入りできるカフェなども含む。セキュリティの点は要注意。
https://officepass.nikkei.jp/user/top.php
叡知オフィスクラウド
全国のフレキシブルオフィス、貸し会議室、レンタルオフィス、ホテルのデイユース、カラオケボックスなどと提携し、約12,000以上の提携スペースを持つプラットフォーム。完全従量課金のため固定費はなし。コンシェルジュが有人対応で付いてスペースの手配を行う。セキュリティの条件や予算設定をもクラウドで行ってくれるのが特徴。
このように、フレキシブルオフィスだけを取ってみても、各社の特徴があります。
①情報セキュリティ
会社としての情報セキュリティ規程と照合して、在宅以外のワークスペースにどのような条件を設定するかを検討します(不特定多数の出入り、Wi-Fiの共有・専有、有線LANの有無、動線の確認、施設内での声漏れチェック、コピー機のセキュリティ、個室やスペースのエントランスセキュリティなど)。
②ファシリティの種類の豊富さ
従業員がどのようにフレキシブルオフィスを使って働くのかを以下のポイントを参考に把握しておきます。
●個室があるスペースがよいのか。オープンスペースのみの施設でよいのか
●ブース席では、周囲が声を出してよい環境でよいのか
●ゲストのフレキシブルオフィスへの来客対応は認めるのか。その際の費用負担はどうするのか
●複数名での会議を行う予定があるのか
③価格
情報セキュリティやファシリティを検討していく際に、同時に考えなければならないのが価格です。当然ながら、セキュリティやファシリティの充実とともに価格が上がっていきます。
また、施設によっては月額固定での費用が発生する場合や、月額制のサブスクリプション型課金体系を持つものもありますが、実際の利用動向を見ながら契約管理を行うのも工数になります。
オフィス削減によるコスト削減から考えて一人当たりどの程度の予算を確保できるのか、利用率はどの程度になるのかについて把握した上で、シミュレーションを行い、各社の料金体系を把握しながら貴社の方針に合ったサービスを選択するのが重要です。
また、貴社のファシリティ戦略やテレワーク規程に沿ったファシリティを選択する必要があります。特に会社負担で従業員に施設を使ってもらう場合、やはりクオリティーの高い施設が心地よいですから、価格を気にせずに高い施設を無意識に使ってしまうような傾向もありますので注意が必要です。
④その他
提携店舗を持つようなサービスを使用する際には、それらすべての施設を従業員が使えるようにしてよいのかというポイントも出てきます。カラオケボックスやホテル、カフェなど、通常はオフィススペース用途として準備されているものではない施設とも提携しているサービスもあります。これらの利用制限をかけられる機能が付いているのかなどもチェックしましょう。
未来のオフィスと働き方
今後、ファシリティの在り方や働き方はどう変わっていくか考えていきます。
これからのファシリティ戦略
最後に、未来のオフィスについて、考えてみましょう。オフィスビル総合研究所が出している「オフィスマーケット予測レポート」によると、今後3年間のオフィス市況予測としては、2019年には0.6%だった東京都心五区での空室率は、2023年にはピークを迎え、5%になると予測されています。
参考:https://www.officesoken.jp/report.html
今後のビルは2023~2025年に大型供給が予定されており、東京駅から品川駅周辺の港区東側へのビル供給が急速に進んでいる中、2023年竣工以降の大型新築ビルでは入居企業の獲得が進んでいません。テレワークが主流になる中で、大型ビルをセントラルオフィスとして構えて全員分の固定席を準備して働くというような在り方は、もしかしたらこの新型コロナウイルスをきっかけに大きく変わってしまうかもしれません。
富士通は2020年7月6日、国内グループの社員の勤務形態はテレワークを基本とし、国内の既存オフィスの床面積を今後3年かけて50%に削減すると発表しました。
参考:https://www.fujitsu.com/jp/group/fjj/services/infrastructure/daas/v-daas/pr-01/
また、ディー・エヌ・エーは、2021年4月30日に、リモートワークの実施により、出社する社員が全体の6%以下になったことを踏まえ、渋谷ヒカリエにある本社オフィスを、WeWorkのオフィススペース「WeWork渋谷スクランブルスクエア」に移転し、従来のオフィスでは約2800席あったデスクを約700席に削減すると発表しました。
このように国内大手企業は、続々とテレワークを基本としてセントラルオフィスの削減をしながら、オフィスにフレキシビリティーを持たせる形でのファシリティ戦略を次々と打ち出しています。
国内で貸し会議室やフレキシブルオフィスリージャスを展開するティーケーピーでは、首都圏のフレキシブルオフィス市場規模は、二〇一九年時点で2,000億円ですが、2030年には30倍の6兆円まで成長すると予測をしています。
参考:https://ir.tkp.jp/news/auto_20210114444456/main/0/link/20210114.pdf
海外においては、2030年にオフィス全体の30%がコワーキングスペースなどのフレキシブルオフィスになるとの予測もあります。これからは、普通借家契約や定期借家契約を基本とした、敷金を支払い、入居者が代わるたびに内装工事をし直すようなスクラップアンドビルド型のセントラルオフィスの利用から、オフィスデザインから家具、通信までビルトインされたファシリティをフレキシブルな形で利用契約をしていくようなシェアリング形式へと切り替わっていくでしょう。さらに利用契約自体においても、2~5年などの長期契約を前提としていた契約が崩れ、一か月、一日、一時間当たりの利用単位での従量課金へと変化してきています。シンガポールのフレキシブルオフィスサービス「Switch」では、スマートフォンでQRコードを読み取ることで入室でき、退室時は再度QRコードを読み取るだけで精算ができるようなボックス型オフィスも登場しています。携帯電話が主流になる前に、電話ボックスがあったような形でオフィスボックスが各所に置かれ、それらを一分単位で利用するような絵図も見えてきます。
次々と変わっていく「働く」の変化とデジタライゼーション
「働く」という行為は場所に限定されないような形への変化も起こってきており、ワーケーションという言葉が出てきました。定義によると、ワーケーションとは「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語で、普段の職場と異なるリゾート地や観光地で働きながら休暇を取ることとされ、新たな働き方として注目されています。別の視点から考えると、各社は「副業」という働き方を容認し、「働く」という行為は会社というコミュニティにも限定されない形へと変化してきています。「働く」ということが、場所やコミュニティというリアルなものから分断可能な形に再定義されていく中において、ファシリティの在り方もそれらの変化に応じて変わっていくのも必然かもしれません。そして、それらの「働く」行為がリアルから分断されるような変化は、必然的にワークツールのデジタル化を促進しますから、リアルにファシリティやコミュニティーに依存しない形でのデジタライゼーションツールの選定とセットでなければなりません。そういった観点からも、コロナ以降の総務の戦略的役割の重要性は極めて高まっており、会社のDXを進め生産性を高めていく要となるはずです。
ファーストプレイスとしてのセントラルオフィス、セカンドプレイスとしてのテレワーク(在宅勤務)、サードプレイスとしてのフレキシブルオフィスやワーケーション。オフィスやファシリティの在り方もどんどん進化していくもので、ツールを機動的にポートフォリオとして組み合わせながら戦略的に取り入れ、従業員の生産性を高める自社の次の一手として提示していくことが重要かもしれません。
最後に、ファシリティマネジメントで使われる基本的な用語をまとめましたので(図表)、自社のオフィスを見直す際に参考にしていただけたらと思います。
※ファシリティマネジメントの基礎用語
・普通借家契約
オフィスを借りる際に結ばれる契約形態の一つ。普通借家契約は2年間契約をするのが一般的ですが、たとえ2年後に契約が満了し、その契約の更新手続きを行わなかったとしても、普通借家契約の場合は法律により強制的に契約が更新されます。中途解約に関しては、解約の予告期間を定めたり、直ちに解約する場合に支払う金銭の額について定めているなど、それぞれの物件で異なります。
・定期借家契約
オフィスを借りる際に結ばれる契約形態の一つ。定期借家契約は2年で契約したら2年後には確実に契約が終了します。貸す側はきちんと期間を区切ることで契約をコントロールすることができます。中途解約に関しては、やむを得ない事情が発生した場合のみ借り主から解約の申し入れをすることができます。一般的に解約の申し入れの日から1か月が経過すれば契約は終了しますが、事前に個別で特約を設けることも可能です。なお、貸し主と借り主が合意すれば、再契約することは可能です。
・原状回復義務
原状回復義務とは、売買契約などが解除されたとき、契約前の状態に戻す義務をいいます。これは民法の規定で、契約の解除は、契約の効力を最初にさかのぼって消滅させるものとして、契約がなかったときと同じ状態に戻す義務があります。一般に、賃借人がオフィスを退去するときに、「原状回復」義務がいわれていますが、本来は賃借人が自分で設置したものを取り除いて返却することを意味します。
・フリーレント
オフィス賃貸において、一定期間賃料が無料になることをいいます。賃料の無料期間は1~3か月程度のものから、物件によっては6か月のフリーレント期間を設定しているものもあります。フリーレントの物件は賃貸借契約等の初期費用が抑えられるというメリットがありますが、一定期間内の解約に対して違約金を支払う条件や、フリーレント期間相当分の賃料支払いなどを求める条項が盛り込まれているケースなどがあります。
・セットアップオフィス
セットアップオフィスは、賃貸オフィスの形態の一つです。貸室内に受付や会議室設置、オフィス内の間取り工事を行い、さらに物件によっては什器まで設置され、入居後すぐにオフィスとして機能できる状態で貸し出すのが、セットアップオフィスの特徴です。
・コミュニティーマネージャー
コミュニティーをマネージ(管理する)仕事を指します。交流を促進したり、業務提携のマッチングをしたり、顧客とサービス提供者のハブとなる存在です。
・サテライトオフィス
サテライトオフィスとは、企業本社や、官公庁・団体の本庁舎・本部から離れた所に設置されたオフィスのことです。本拠を中心として見たときに、惑星を周回する衛星(サテライト)のように存在するオフィスとの意から命名されています。主に①勤務者が遠隔勤務をできるよう通信設備を整えたオフィス、②郊外に立地する企業や学校などの団体が、都心に設置した小規模のオフィス、という2つの意味があります。
・フレキシブルオフィス
従来の長期賃貸契約による専用のオフィスではなく、シェアオフィスやコワーキングスペースなど、柔軟な利用形態で使用するオフィスのことを指します。